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研究概要
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 真核生物のモデルである出芽酵母における細胞内のタンパク質輸送やタンパク質分解の研究を行っています。

 真核生物は原核生物に比べて複雑な細胞内構造を有しています。タンパク質がその複雑な内部を通り目的地に正しく輸送されることは真核細胞の正常な機能に重要です。また、タンパク質は正しく作られなければ機能を発揮しません。しかしながら、全てのタンパク質が正しく作られるわけではありません。このような“異常”タンパク質を分解する機構もまた真核細胞の正常な機能に重要です。

 本研究室では、タンパク質がどのように輸送及び分解されるのかを調べています。

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寒天培地上での酵母の生育写真。

遺伝子の違いによって生育度合いが異なる。

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蛍光顕微鏡写真

(タンパク質の細胞内局在の可視化)

酵母について
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 酵母という名称は正式な生物学的分類ではないとされています。生活環のほとんどを単細胞で生きている真菌類の菌が酵母と呼ばれています。Saccharomyces cerevisiaeは出芽酵母の一種であり、いわゆるパン酵母や清酒酵母として知られています。研究に用いられている酵母はS. cerevisiaeだけではありません。その他に、分裂酵母の一種であるSchizosaccharomyces pombeなどが用いられています。酵母は、真核生物に属している点、単細胞生物である点、容易に培養できる点、遺伝子改変が容易である点などの利点を持っているので、モデル真核生物として分子生物学、細胞生物学に利用されてきました。細胞周期に関する研究によりリーランド・ハートウェル博士とポール・ナース博士、細胞内タンパク質輸送に関する研究によりランディ・シェクマン博士、オートファジーに関する研究により大隅良典博士がそれぞれノーベル生理学・医学賞を受賞されています。このように、酵母は生命現象を明らかにするツールとして活用されてきました。

詳しい研究内容

<背景>

 真核生物において、分泌経路(小胞体→ゴルジ体→細胞外)で輸送される可溶性タンパク質は、小胞体内への輸送の目印として小胞体シグナルペプチド(以下、シグナルペプチド)を持っています。細胞質から小胞体内へのタンパク質の輸送は、小胞体膜上のトランスロコンと呼ばれるタンパク質複合体が担っています。タンパク質がトランスロコンを通過するときに、シグナルペプチドが必要であり、シグナルペプチドを持たない可溶性タンパク質はトランスロコンを通過できないと考えられてきました。

 一方で、一部の可溶性タンパク質がシグナルペプチドを持たないにもかかわらず、小胞体内に輸送されることが以前から報告されてきました。しかし、輸送に関わる因子が同定されておらず、シグナルペプチドを持たないタンパク質がどのようにして小胞体内へ輸送されるのかよくわかっていませんでした。

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<これまで明らかにしたこと>

Ste24の同定

 当研究室では、シグナルペプチドを持たないタンパク質の小胞体内への輸送(シグナルペプチド非依存的輸送)について出芽酵母を用いて解析を行ったところ、輸送の抑制因子としてSte24タンパク質を同定しました。また、Ste24タンパク質を欠損した変異株を用いて、シグナルペプチドを持たないタンパク質Rme1が小胞体内へ輸送されることを発見しました(J Biol Chem. 2020, 295, 10406-19.)(下図)。以下のページも参考にしてください。https://www.riken.jp/press/2020/20200619_1/index.html

シグナルペプチドに依存しない輸送の概略図.png

ヒトSOD1は小胞体内腔を経て分泌される

 SOD1(スーパーオキシドジスムターゼ)は細胞質で働く酵素です。SOD1は筋萎縮性側索硬化症(Amyotrophic Lateral Sclerosis: ALS)の原因タンパク質としても知られています。以前から、SOD1が小胞体やゴルジ体で検出されることや細胞外に分泌されることが知られていました。また、ALS患者で分泌されたSOD1に細胞毒性があることが報告されました。我々は小胞体シグナルペプチドを持たないヒトSOD1の挙動に興味を持ち、出芽酵母のste24遺伝子破壊株とhrd1遺伝子破壊株(Hrd1は小胞体関連分解(ERAD)に関与するタンパク質)を用いて調べてみることにしました。解析の結果、一部のSOD1が小胞体内へ輸送され得ることがわかりました。加えて、小胞体内へ輸送されたSOD1が分泌されることや分泌されたSOD1の立体構造が崩れていることを明らかにしました(Biochem Biophys Res Commun. 2023, 666, 101-6.)。

 これまでの研究結果から考えられることは、ALS患者で分泌されているSOD1が小胞体内を経ており、小胞体内で異常な立体構造を獲得するのではないかということです。SOD1が小胞体内へ輸送されることを抑制したり、SOD1がERADで分解されることを促進したりすることができれば、異常なSOD1の分泌を減少させることができるのではないかと考えられます。

<明らかにしたいこと>

①これまでの研究でシグナルペプチド非依存的輸送においてSte24が輸送抑制に関与することを明らかにしました。しかしながら、輸送抑制の具体的な分子メカニズムは明らかになっていません。そこで、Ste24のタンパク質としての機能を明らかにしようと考えています。

②シグナルペプチド非依存的輸送において、シグナルペプチドを持たないタンパク質が全て輸送されるわけではなく特定のタンパク質が輸送されることを明らかにしています。つまり、輸送されるタンパク質には何らかの選択が行われています。そこで、この選択の基準(輸送シグナル)を明らかにしたいと考えています。

③シグナルペプチドを持たないタンパク質がどのようにトランスロコン(Sec61)を通過するのかその詳細を明らかにしたいと考えています。タンパク質がトランスロコンを通過するときにはシグナルペプチドがトランスロコンの孔を開くことが明らかにされています。つまり、シグナルペプチドを持たない可溶性タンパク質がどのようにトランスロコンの孔を通過することができるのか解明を試みています。

④Ste24に加えてSpc2タンパク質もまたシグナルペプチド非依存的輸送の抑制に関与することを明らかにしています(J Biol Chem. 2020, 295, 10406-19.)。Spc2はシグナルペプチダーゼ複合体のサブユニットです。しかしながら、別のサブユニットであるSpc1は抑制に関与しません。つまり、Spc2の輸送抑制機能はシグナルペプチダーゼ複合体としての機能と別であると考えられます。このSpc2の機能についても明らかにしようと試みています。

⑤シグナルペプチド非依存的輸送がヒトのタンパク質でも起こるのかについても研究を進めています。文献を検索すると、出芽酵母だけでなくヒトにもシグナルペプチド非依存的輸送されたと考えられるタンパク質が存在します。そこで、これらのタンパク質を出芽酵母に発現させて検証を行っています。

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